きごこちエッセイ VOL.1 衣服の役割―装うと被う

きごこちエッセイ VOL.2 快適性(着心地)とは

きごこちエッセイ VOL.3 冬暖かく夏涼しい衣服―衣服内気候 1.環境条件と衣服

きごこちエッセイ VOL.4 冬暖かく夏涼しい衣服―衣服内気候 2.環境条件と人体生理

きごこちエッセイ VOL.5 冬暖かく夏涼しい衣服―衣服内気候 3.寒さを防ぐ衣服

きごこちエッセイVOL.6 冬暖かく夏涼しい衣服―衣服内気候 4.暑さをしのぐ衣服

きごこちエッセイVOL.7 動作に追従する衣服――衣服圧

きごこちエッセイVOL.8 肌触りのよい衣服

きごこちエッセイVOL.9 清潔な衣生活と繊維―抗菌性、消臭など

きごこちエッセイVOL.10 安心・安全な衣生活と繊維―帯電防止と防炎

トップページに戻る


「快適性」を科学する
VOL.1 衣服の役割―装うと被う

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

「人に優しい」は商品にとりとても大切な品質です。“優しい”を英語で“フレンドリィ”といいますが、衣服は極めて身近にあってどこへ行くにも一緒の文字通り人にとっては“友達”なのです。その衣服の最も基本的な役割は「装う」と「被う」の2つです。「装う」は自己表現の手段としての役割を、「被う」は外界から身を守る役割を意味します。
衣服に求められる品質として、消費者が購入して、使用していく過程に従って考えてみますと次の4つがあげられます。

(1) 感性
消費者が思わず買いたくなるような商品(衣服)が買う人に訴えるアピール性で、衣服の「装う」という役割に相当します。好みの要素があり、人の心理的要因 に強く影響を受けます。個人の感性が個性といわれるように、個人による違いもありま す。また時代の感性がファッションといわれるように、時とともに変化します。      

(2) 快適性
外界から身を守るため(衣服の「被う」という役割)に衣服を身に付け ますが、快適性はこのときに心地良く感じる性質のことで、着心地ともいいます。人の生理的要因と、外部の環境(気温、湿度、風、雨など)の影響を受けますし、安静にしているときと運動しているときでは異なります。個人差はあるものの、感性ほどの差異はありません。環境〜衣服〜人体のシステムの中で衣服の役割を考える必要があります。

(3) 着やすさ
(2)の快適性に含めて考えられる場合もあります。しかし人体との関係のうち生理的なことではなく人体寸法、体型、動作との関係が深く、外部の環境の影響が少ないのでここでは別に取り扱います。衣服は平面(2次元)の布を人体に沿うために立体(3次元)形状に作り上げられますので、この衣服構成が重要な要因となります。他の商品の場合では「使いやすさ」といわれるものに相当します。

(4) 耐久性、取り扱いのしやすさ
購入したときの品質が簡単な手入れで必要な期間維持される品質のことです。衣服は繰り返し使用しますので、洗濯や保管による品質の変化の程度が問題となります。消費者の期待を下回ると消費者苦情が発生します。

衣服の品質を、商品として当然確保すべき「当たり前品質」と、消費者が思わず買いたくなる「魅力品質」に区分する場合があります。一概にはいえませんが、上記の(1)と(2)が魅力品質に、(3)と(4)が当たり前品質に位置付けられることが多いといえるでしょう。購入の際には消費者は当然品質の満足度(価値)と価格を比較します。
快適性を科学の目で見る  現在、魅力品質として注目されている上記(2)の衣服の快適性を科学の目で見ていこうというのが本シリーズの目的です。科学の目といっても、素材(衣服材料)のことは物理学と化学、人の体のことは生理学、体型や動作による変化は解剖学、お天気のことは気象学、そして人が快適性をどのように捉えるかについては心理学とさまざまです。ちょっと科学的な見方をすると、衣生活がもっと楽しくなると思います。

→もくじに戻る



「快適性」を科学する

VOL. 快適性(着心地)とは

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

全ての衣服に共通な快適性の主な要因  快適性(着心地)の良し悪しの判断は、実際に衣服を着てその感じを言葉として表現されます。どのように判断され、どんな言葉で表現されるかを実際に着用テストを行い心理学の研究で使われる手法で調べて見ました。そうしますと3つのグループに分類されることが判りました。快適性は五感のうちの触感(皮膚感覚)と関係が深いと考えられています。皮膚感覚は皮膚表面にある感覚の受容器(センサーに相当)よって感知される訳ですから、皮膚と皮膚表面の間の微小な空間が快適性を決める上で重要な意味を持ちます。全てに衣服に共通な快適性の主要因は次の3つです。

(1) 衣服内気候
衣服と皮膚の間の微小空間の温度、湿度のことで、寒い〜暑いなどの温冷感と蒸れる〜さらっとしているなどの湿潤感と関係が深い。人の体温調節機能・発汗作用、外部の環境条件の影響を受けます。衣服内気候には、素材(衣服材料)では水分/熱移動特性が、衣服形状ではゆとりや開口部の大きさが関係します。

       

(2) 衣服圧
動作による皮膚伸びにより発生する衣服による皮膚への圧迫力のことで、きつい〜ゆるいなどの圧迫感として捉えられます。素材のストレッチ特性や衣服のゆとりが関係します。体に密着して着る服種では「着やすさ」と合わせて取り扱います。

(3) 肌触り
皮膚と衣服との接触によるもので、やわらかい〜かたいなどの接触感(狭い意味の風合い)と接触温冷感(手から布への瞬時の熱移動現象)とがあります。

特定の用途に加わる快適性の要因 用途によっては次の要因が加わります。

(4)「清潔」――抗菌防臭、消臭など
(5)「安全・安心」――防炎、帯電防止

これらの5つの要因について、順々に説明していきます。

より良い繊維を求めて  現在は色々な繊維素材が容易に入手できますが、人類はより良い繊維素材を求めて古くから努力をして世界史を変える出来事がおきています。人類4大文明発祥の地で使われた繊維は、エジプトは麻、インドは綿、中央アジアは羊毛(後のローマ帝国時代にヨーロッパへ)、中国は絹でした。絹を求めたシルクロードは紀元前3〜2世紀には整備されました。15世紀イタリアのルネサンスを支えたメディチ家やコロンブスのアメリカ大陸発見を支援したスペイン女王の富の源は毛織物や羊毛繊維で得られたものですし、18世紀イギリスの産業革命は大量の綿織物の生産を実現するためでした。また科学技術の進歩により人の手で作りたいという願望で生まれた合成染料の発明(1865年)がその後の化学工業の元に、ナイロン繊維の発明(1938年)が高分子工業の元になっています。
特化素材  近年汎用繊維を改質して特別の機能を付与する特化素材が著しい発展をしています。改質には、合成繊維を製造する段階で行う原糸・原綿改質と、紡績・糸加工、製編織、染色仕上段階で行う後加工改質(天然繊維、合成繊維両方に適用)があります。

→もくじに戻る


「快適性」を科学する
VOL. 冬暖かく夏涼しい衣服―衣服内気候 1.環境条件と衣服

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

寒くて暑い国 日本  日本は大陸の東側に位置し、東岸気候でニューヨークなどと同様冬は寒く、夏は暑い。大陸の西岸にあるヨーロッパの都市やサンフランシスコの温暖な気候とは対照的です。特に日本の夏は海洋性の季節風(モンスーン)の影響を受けて湿度が高く、フィリッピンのマニラと同じくらいの高温高湿になります。

冬の天気図、冬日、真冬日  冬の典型的な天気図である西高東低の気圧配置は日本海側を世界有数の豪雪地帯にする一方、太平洋側では晴天であるがカラッ風の吹く寒い気候をもたらします。一日の最低気温が0℃以下の日を冬日、一日の最高温度が0℃以下の日を真冬日といいます。日本で記録された最低気温は−41.0℃(旭川、1902年1月25日)です。

夏の天気図、夏日、真夏日、熱帯夜  日本の夏の特徴は蒸し暑さにあります。一日の最高温度が25℃以上の日を夏日、一日の最高温度が30℃以上の日を真夏日といいます。日本の最高温度は40.8℃(山形、1933年7月25日)ですが、フェーン現象によるもので、このときの湿度は高くありません。翌早朝の最低温度が25℃以上の夜を熱帯夜といいます。

不快指数  夏の暑さを表す不快指数は、[不快指数]={[乾球温度]+[湿球温度]}×0.72+40.6 で表され、湿度の影響が加味されています。不快指数75以上は「やや暑い」、80以上は「暑くて汗が出る」、85以上は「暑くてたまらない」とされています。


 

太陽光  赤外線のうち波長2μm以上の中・遠赤外線に対し皮膚は反射率も透過率も低いので皮下1mm以内の皮膚組織で熱に変わり温熱感を与えます。紫外線A波(波長320〜400nm)が皮膚に照射されると皮膚が着色する色素沈着(サンタン)が起き、紫外線B波(波長290〜320nm)の場合は、皮膚が赤くなる紅斑現象(サンバーン)が起きます。

  雨に濡れた衣服は体にまとわり付き、保温性が低下します。雨の水滴の大きさ(直径)は、しとしと雨で約500μm、普通の雨で約2000μm(=2mm)、雷雨で約3000μmです。

  風は皮膚表面を取り囲んでいる暖かい境界層の空気を運び去るので、寒いときに風が吹くと非常に寒く感じ、暑いときには汗の蒸発を促進させ涼しく感じます。

気温と服装  人が裸でいて快適に感じるのは気温が28〜32℃の範囲です。それ以外の場合は衣服を着て調節する必要があります。冬から春、夏にかけて、10℃を越えると寒さが和らぎ、15℃を越えると暖かさを感じ(春分の日の最高気温(東京、平均)は14.4℃)。そして25℃(夏日)を越えると長袖から半袖に衣更えし、30℃以上になると暑さを感じます。一方夏から秋、冬にかけては、25℃以下になると涼しさを感じます(秋分の日の最高温度(東京、平均)は25.7℃)。15℃を下回ると寒さを感じるようになり、10℃以下では寒い。

暖かさ、涼しさを衣服で調節―移動可能な快適空間を作りだす  人は衣服を着ることによって、肌と衣服の間に快適な微小空間を人工的に作りだし、寒冷から暑熱までのさまざまな外界の環境条件にエネルギーを使わないで適応でき、どこへでも移動できます。

→もくじに戻る



「快適性」を科学する
VOL.4 冬暖かく夏涼しい衣服―衣服内気候 2.環境条件と人体生理

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

温熱生理学  温熱生理学は、体温、血流量、発汗量などを測定して複雑な人体の体温調節機能を解明する学問です。

体温―深部体温と皮膚表面温度  人は恒温動物ですので、体温を一定に保つ体温調節機能が備わっていますが、全身同一温度ではありません。頭部や内臓のある体の中心部(躯体部)は一定に保たれていて、約37℃です。躯体部の皮膚表面温度は、深部体温よりは低く、快適な状態で34〜33℃といわれています。寒いときには熱放散を少なくするために血管が収縮し、逆に暑いときには熱放散を多くするために血管が拡大し血流量を増やすなどの調節がおこなわれます。手足の皮膚温は外気温度の影響を受けて変化します。

  身体から絶え間なく1日約850gの気相の水分が蒸発していますが、自覚していないので不感蒸泄(ふかんじょうせつ)といいます。寝ているときに牛乳1本分(200ml)の汗をかくといわれるのがこれです。約180〜275万個あるといわれる汗腺から出る汗を発汗といい、99%は液相の水です。水1gが蒸発する際には約0.58kcalの熱が奪われます。これが蒸発熱(潜熱)で体温を低下させる働きをしますが、大量に汗をかくと蒸発できずに皮膚表面に残ります。汗には体温調節機能と関係が深い温熱性発汗の他に、興奮したときに手掌と足の裏にかく精神性発汗(手に汗にぎるといわれる状態)があります。

寒いときの生理反応  手と足は外気の温度を感知する役目を持っており、寒冷環境と判断すると、まず熱放散を少なくするために血管を収縮させます。これでも体温が保たれずに深部体温が36〜35℃になると、ふるえによって熱を産生します。放熱量が多いときには頭部と躯体部の体温を極力保つようにして手足の温度を下げます。皮膚温度が25℃まで下がると皮膚感覚が麻痺します。もっと放熱が進み、深部体温が33℃を下回ると意識混濁となり、30℃以下では死亡(凍死)するケースが増えるとされています。

暑いときの生理反応  暑熱環境の場合は血管を拡大して血流量を多く熱の放散を促進させます。熱の放散に関して手の役割は大きく、袖の長さを変えて調節します。それで不十分な場合は発汗が生じ、この汗の蒸発熱で体温を下げます。深部体温が上がると蛋白質の変質がおこり上限は42℃とされています。暑熱時には頭部に特別の冷却機構が働きます。

快適な衣服内気候  衣服内気候が快適な範囲(快適域)は、温度が32±1℃、相対湿度が50±10%です。この狭い範囲から外れると不快に感じます。躯体部の皮膚温は34〜33℃ですので、快適な状態は、衣服との間の微小な空間(衣服内)の温度がそれよりやや低め目で、空気が乾いている状態です。外部環境条件や人の活動状況に応じて衣服内気候を快適域に保つことが衣服の役割です。寒さを防ぐには、低い衣服内温度を上げて快適域に、一方蒸し暑さをしのぐには、高い衣服内湿度を下げて快適域にもっていくようにします。

→もくじに戻る


 
「快適性」を科学する
VOL.5 冬暖かく夏涼しい衣服―衣服内気候 3.寒さを防ぐ衣服

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

寒さの感覚と衣服内温度  
背広の下にベスト、カッターシャツ、丸首シャツを着た服装で、外気温度0.9℃のとき、衣服内温度は27.9℃で寒くてたまらない、コートを着ると28.3℃で寒いが我慢できる、さらにセーターを着込むと30.1℃でやや寒い程度となります。外気温が11.5℃のとき、コートを着た状態では31.0℃で寒さを感じない(快適)となります。31℃より低い温度領域では、衣服内温度の1℃の差は感覚ではっきりと違いが判ります。
図はインナーを着用した場合と、着用していない場合の比較です。外からは同じ服装に見えますが、内にインナーを着ると、寒さを感じなく快適で衣服内温度は31.5℃です。インナーを脱ぐと、寒く感じ衣服内温度は29.1℃となります。

寒さから身を守るには
(1)頭部や躯体部(内臓のある体の中心部)を保温します。
(2)衣服の中に空気を多く抱き込むように、厚手の服あるいは重ね着をします。
(3)外界からの風と水(雨、雪)を遮断します。
(4)汗をかいたときには、汗を肌から遠ざけ、外にはき出すようにします。

薄く、軽くても暖かい“保温素材” 
低い衣服内温度を快適域にまで上げるために断熱性の高い(保温性に富む)材料で出来た衣服を着る必要があります。天然の防寒材料である毛皮、羽毛、羊毛、獣毛などはいずれも空気を多く含む構造をしています。空気は最も高い断熱性の材料だからです。天然の保温材料は分厚く重いので、近年薄く、軽くても暖かい保温素材の開発が進んでいます。

  • 断熱保温素材 合成繊維で空気を多く含む構造のもので、アクリルのバルキーヤーン(セーターに用いる)、ポリエステルのフリースや中空繊維、超極細繊維のシート(不織布)。
  • 発熱保温素材 繊維は水分を吸着すると、水分子と繊維の間の親和力によって熱(吸着熱)を発生します。吸湿率の高い繊維ほど多く発生し、羊毛の暖かさの理由の一つです。吸湿率の高いアクリレート系繊維(表示は「指定外繊維」)は不感蒸泄を吸着して多くの吸着熱が発生します。 
  • 太陽光蓄熱保温素材 太陽光(可視光線)の光エネルギーを熱エネルギー(赤外線)に変換可能なセラミックス(炭化ジリコニウムなど)をナイロン、ポリエステルに練り込みます。
  • 輻射熱反射保温素材 体内から放射される熱放射(波長8〜12μm)を衣服の外に逃がさないように、アルミニウムやチタンを織編物表面に塗布します。
  • 遠赤外線蓄熱保温素材 セラミックスなどによる常温域での遠赤外線の放射特性を利用して、血行を良くし皮膚表面温度を上昇させます。

汗(水蒸気)は通すが雨は防ぐ“透湿・防水素材”
水の熱伝導率は空気の25倍もあるので衣服が水に濡れると保温性は大幅に低下し、体にまとわり付きます。透湿・防水素材は、0.1〜10μmの微多孔を作り、水(雨の直径約2000μm)と水蒸気(直径0.0004μm)の大きさの違いを利用して、防水と透湿という相反する性質を両立させたものです。製造方法には(1)微多孔フィルムを織編物にラミネートする、(2)コーティングにより微多孔質の被膜を織編物上に形成する、(3)高密度織物に撥水加工する――の3つがあります。無孔でも親水性樹脂を使うと類似の効果が得られます。

→もくじに戻る


  

「快適性」を科学する
VOL.6 冬暖かく夏涼しい衣服―衣服内気候 4.暑さをしのぐ衣服

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

蒸し暑さの感覚と外気の温・湿度
半袖のカッターシャツにネクタイ、丸首の下着という服装で、夏にいろいろな外気の温・湿度で暑さをどのように感じるかを調べてみました。
湿度の影響が強く、外気温が同じ30℃でも相対湿度が50%ならばやや暑い程度ですが、70%になると暑くて不快に感じます。不快指数という指数は、75以上が“やや暑い”(やや不快)、80以上が“暑くて汗が出る”(不快)、85以上が“暑くてたまらない”(非常に不快)といわれています。一連の調査から不快指数は妥当であると思います。


蒸し暑さをしのぐには
(1)空気が体全体を循環するようにゆったりとしたデザインに。
(2)かいた汗を素早く吸い取り、外へ発散させる素材を使います。
(3)太陽が照り付けるとき(砂漠など)には、太陽光の放射エネルギ−を遮断します。
(4)外気温が非常に高いとき(消火活動など)には、熱エネルギーを遮断します。

汗による不快感とその解消法
不感蒸泄から発汗の初期には“蒸れ感“、大量に発汗すると“濡れ感”と“まとわり付き”、運動を止めると“冷え感”が発生します。これらの不快感を解消するには、かいた汗を素早く吸収し外気側へ放散させる必要があります。汗の吸収では吸湿性(不感蒸泄は気相の水分)と吸水性(発汗は液相の水)の両方が求められます。夏に下着を着ると暑そうにみえますが、下着が汗を吸って衣服内湿度の上昇を抑制します。

蒸し暑さをしのぐための素材

  • 合成繊維の親水化(吸湿性、吸水性付与) 疎水性の合成繊維を親水化する技術が開発されています。ポリエステルやナイロンに吸湿性(気相の水分を吸収)を付与したものは未だ用途が限定されています。吸水性(液相の水を吸収)の付与法は繊維表面を多孔構造にしたり異形断面にして毛細管現象を起こしやすくするものです。
  • 吸汗・速乾素材(複合繊維による) 綿は汗を吸いますが発散速度が遅いために、多量の汗をかいたときには濡れ雑巾のようになって不快になります。多層構造ニットは、肌側の汗を吸う役割と外気側から汗を放散する役割を分担するもので、綿やポリエステル(吸水性を付与したものを含む)が巧みに組み合わされています。服種や使用される環境条件、予想される発汗量などに応じさまざまなものが開発されています。多層構造ヤーンは多層構造ニットの考えを1本のヤーン(糸)で実現したものです。
  • 冷房設定温度28℃対応快適シャツ 地球温暖化問題(省エネルギー対策)に関連し話題になっているシャツで、衣服内湿度の上昇を抑制します。
  • 軽・涼スーツ 吸湿性の高い羊毛の糸に強撚をかけた通気性の良い盛夏用毛織物です。
  • 太陽光遮断(赤外線反射)素材 銀メッキ繊維を使用し赤外線を反射させて、衣服内温度の上昇を防ぎます。
  • 紫外線遮蔽(UVカット)素材 薄い白物の織物は紫外線を透しやすい。紫外線を拡散させるセラミックスを合成繊維に混練、または後加工で紫外線吸収剤を吸尽させます。
  • 接触冷感素材 熱伝導率の高いエバール繊維を使用しており、触るとひやっとします。

→もくじに戻る



「快適性」を科学する
VOL.7 動作に追従する衣服
―衣服圧 

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

動作による皮膚伸びと衣服との関係
動作によって皮膚が伸びるとき、衣服との間には、(皮膚伸び)=(衣服のゆとり)+(衣服と皮膚のずれ)+(衣服材料の伸び)という関係があります。伸縮性に富んだ衣服(ストレッチ衣料)が出現して、ゆとりが少ない(もしくはマイナスの)体にぴったりした衣服でも動作に追従できるようになりました。

衣服
後肘部は肘を曲げたとき、垂直方向に62%、水平方向に42%も伸びます(標点間距離5cm)。


このように動作によって皮膚が伸びるとき、衣服材料の伸びが少ないと衣服が皮膚を圧迫します。これを衣服圧といい、圧力の単位であるkPa(キロ パスカル)で表します。10円玉1個を硬い所においたとき約0.1kPaの圧力になります。一定の伸び量に対して大きな張力が必要な(伸びにくい)衣服材料は衣服圧が高くなります。同じ衣服材料で同じ必要伸びでも、細い部位の方が太い部位よりも衣服圧は高くなります。
皮膚が伸びなくとも、ファンデーションのように締めつけている場合や衣服の重量がかかる肩にも衣服圧は発生します。この衣服圧が高すぎると不快に感じ、部位によって違いますが、4kPa以上では生理的によくない影響がでる可能性があるといわれています。

ストレッチ素材
ニットは織物に比べてよく伸びます。メリヤスを漢字で“莫大小”と書き、これは“大小なし”即ちフリーサイズという意味です。近年進歩の著しいよく伸びてよく元に戻るストレッチ素材の秘密は糸にあります。伸縮加工糸はナイロンやポリエステルを仮撚加工という方法で捲縮を付与した連続した糸です。ウレタン繊維はゴムのように大きな伸びを与えてもよく回復する繊維です。多くの場合ウレタン繊維は他の繊維でカバー(被覆)されて使われます。ストレッチ素材にはこれらの糸が用いられています。

  • コンフォート ストレッチ 通常の織物を両手で引張って伸びる量は2〜6%程度です。ウレタン繊維を数%混ぜて伸び率を10〜20%にした織物がコンフォート ストレッチといわれるものでストレッチデニムなどがあります。伸縮加工糸を使った織物もこれに該当します。最近羊毛100%で伸び率10%以上の毛織物が開発されています。
  • パフォーマンス ストレッチ 伸び率20〜40%のニット(ダブルニット)で、ナイロンまたはポリエステルの伸縮加工糸からなっています。スポーツ用途に広く使われています。
  • パワー ストレッチ 伸び率40%以上のニットで、ウレタン繊維が混ぜてあります。経編(トリコット)には、水着などに使われる2方向に伸びるツーウエイ ストレッチ(ハーフ編など)と、ファンデーションなどに使われる1方向だけ伸びるワンウエイ ストレッチ(パワーネットなど)があります。体の大きさより小さい衣服を伸ばして着ます。

体型
日本人の体型調査がレーザー光による非接触式3次元人体計測装置などを使い人間生活工学研究センターによって数万人を対象に行われました。この体型調査結果を元にJIS(日本工業規格)の衣料サイズ表示が改正になりました。

→もくじに戻る



「快適性」を科学する
VOL.8 肌触りのよい衣服

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

肌触り―接触感(風合い)と接触温冷感
肌触りには、風合いといわれる皮膚(手)で布(織編物、服地、衣服材料)を触って判断される皮膚になじむ感じの「接触感」と、布に触ってすぐに感じる暖かいあるいはひやっとする感じの「接触温冷感」があります。

接触感(風合い)
外衣では風合いを「感性」品質として捉えることが多い。布表面の状態(テクスチャー)を触覚とともに視覚でも捉えて布の審美的性質として位置付けるからです。また衣服に仕立てた後の仕立て映えやドレープ性とも関連性が強く、専門家は風合いを判定するときに仕立て映えや衣服のドレープ形状の予想もしています。直接肌に触れる用途では風合いを「快適性」の一つの要素である「肌触り」として捉えることが多い。

接触感(風合い)と布の力学的性質
風合いは布を人が手で触って、その感じを言葉にして表現するものです。風合いを判定するとき、布は手によって変形を受けます。風合いの判定を専門にしている人の手の動きを観察しますと、10個位のパターンがあります。毛織物では織物を二つ折にして判定されることが多く、また合成織物では織物をにぎり込んで判定されるなど、素材の種類によっても方法が異なります。一般に材料が外力を受けて変形する性質を力学的性質といいます。したがって「風合いは布の力学的性質を感覚として捉えたもの」ということができます。


布の力学的性質は基本的には次の5つです。
(1)曲げ変形(布の両端を曲げる)
(2)伸張変形(布の両端を引張る)
(3)せん断変形(バイヤス方向に引張る)
(4)圧縮変形(布を厚み方向に押える)
(5)表面摩擦(布表面のすべりやすさ)
これに(6)厚み、(7)目付け(単位面積当りの布重量)を加えて基本力学特性といいます。基本力学特性を計測する装置(KES)が開発され広く使われています。

風合い形容語と布の力学的性質
風合いを表現する言葉(風合い形容語)は150を越えます。これらの風合い形容語と布の基本力学特性を結び付ける手法が考えられています。

「やわらかい(ソフト)」の内容
近年ソフト化の傾向が顕著ですが、“やわらかい”、“ソフト”の内容には多く意味があり、それぞれに実現の方策が異なります(→で示す)。

a.曲げてやわらかい→細い繊維(極細繊維、高級綿、ファインウール)、細い糸を使用。
b.圧縮してやわらかい→ふくらみに富む糸(厚手織物で望まれる)。
c.せん断変形しやすい→後加工での工夫、例えば減量加工(薄地織物で望まれる)。
d.すべりやすい(ざらざらの反対語)→布表面の平滑化、すべりやすい加工剤を塗布。
e.表面毛羽の状態→布表面を起毛。

好まれる風合い
好まれる風合いは、用途により異なるが、やわらかい、ソフトの他に、しなやか、腰がある、張りがある、ふくらみ、ぬめり(毛織物)、しゃり(夏物)など。

接触温冷感
手から布への瞬時の熱移動現象で、熱移動量が多いほど“ひやっとした”と感じます。夏はひやっとした感じが好まれますが、冬は嫌われます。外気温が低いほど、布が水分を多く含んでいるほど熱移動量が多く、布表面に毛羽があると熱移動量は少ない。

→もくじに戻る



「快適性」を科学する
VOL.9 清潔な衣生活と繊維―抗菌性、消臭など

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

抗菌性―抗菌防臭加工、制菌加工
繊維の抗菌性には抗菌防臭加工と制菌加工があります。抗菌防臭加工は、悪臭の発生を防ぐために菌の増殖を抑制する加工です。試験の対象となる菌は黄色ぶどう球菌で、耐久性は家庭洗濯で試験します。用途は靴下、下着などです。制菌加工は、菌の増殖を抑制する加工ですが殺菌ではありません。試験の対象となる菌は黄色ぶどう球菌の他に肺炎かん菌、大腸菌、緑膿菌(以上一般用途)、それに特定用途(医療機関向け)にはMRSAも加わります。耐久性試験は業務用を想定して商業洗濯ですので、抗菌防臭加工よりも耐洗濯性に優れたものが要求されます。両者は技術的に似ていて、抗菌剤を合成繊維の製造段階で練り込む方法と後加工で含浸・塗布する方法があります。
繊維評価技術協議会の基準に合格したものは「SEKラベル」の青ラベル(抗菌防臭加工)、橙ラベル(制菌加工の一般用途)、赤ラベル(制菌加工の特定用途)が貼付されています。

消臭素材
消臭方法には、悪臭物質を化学吸着(中和作用)させたりまたは臭わない物質に化学変化(触媒作用)させる化学的方法、悪臭物質を活性炭などで吸着する物理的方法と芳香剤でマスキングする感覚的方法の3つがあります。消臭素材は主として化学的方法によるもので、消臭剤を合成繊維製造時あるいは後加工で付与します。
悪臭物質の種類は多い。生活のなかで発生する4大悪臭は、アンモニア(尿などの刺激臭)、トリメチルメタン(魚の腐敗臭)、硫化水素(卵の腐敗臭)、メチルメルカプタン(たまねぎの腐敗臭)です。たばこ臭は極めて多数の悪臭物質が混在しています。汗そのものは臭いませんが、微生物で分解されて生成するアンモニア、イソ吉草酸、酢酸などが悪臭の原因となります。加齢臭はパルミトオレイン酸が分解されて生成されたノネナールが原因とされています。全ての悪臭物質に有効な消臭技術はなく、用途別に消臭剤を選択する必要があります。消臭効果の確認は機器による計測と感覚による判定が併用されます。

防汚性
防汚性にはいろいろな意味があって、汚れが付きにくいためには撥水・撥油性、家庭洗濯で汚れが落ちやすく、再汚染しにくいためには親水性が求められ、両立が課題です。繊維の断面を田の字型にすると汚れが付いても乱反射により目立たなくなります。

花粉付着抑制衣服
花粉が付き難く、付いても落ちやすく、衣料内部に入り難い衣服です。

防ダニ素材
ダニ忌避剤を後加工で付与する方法と高密度織物によりダニの通過を防ぐ方法(ふとんの側地など)があります。

ノン・アレルゲン素材
使用する加工剤や染料などからアレルギー抗原になる可能性のある物質を極力取り除いて加工を施します。皮膚が特に弱い人向けの商品に用います

「癒し」の繊維
見た目にやすらぎを与えるもの(f/1ゆらぎ効果の利用など)や人体にやすらぎを与える作用のもの(マイナスイオン効果など)が提案されています。さらに竹などの天然物を使ったものもあります。効果を科学的に証明するのは難しい面があります。

→もくじに戻る


 


「快適性」を科学する
VOL.10 安心・安全な衣生活と繊維―帯電防止と防炎

きごこち科学研究協会顧問 原田隆司

静電気障害
2つの異なる物質を摩擦すると、接触面に+と−の電荷(静電気)が発生して、まとわり付く、ほこりが付く、脱着時にパチパチ音がするなどの障害が起こります。
いろいろな繊維の静電序列(摩擦帯電列)が知られています。
(+)ナイロン、羊毛、絹、レーヨン、綿、ビニロン、ポリエステル、アクリル、アクリル系(−)
2種類の繊維を摩擦したとき、(+)に近い方の繊維はプラスに、(−)に近い方の繊維はマイナスに帯電します。静電序列が離れている繊維同士ほど帯電量は多くなります。同じ繊維同士では、静電気は発生しません。静電気障害は繊維の水分率に関係し、低湿度の雰囲気ほど発生します。親水性の天然繊維でも低湿度では静電気障害が発生します。

帯電防止―制電素材、導電素材
帯電防止の方法として2つの方法があります。1つは発生した電荷を漏洩する方法で制電素材といわれ、帯電防止剤を合成繊維の製造段階で練り込む方法と後加工で付与する方法があります。帯電防止剤をスプレーで吹き付ける方法も原理的には同じです。もう1つは低湿度(相対湿度30%以下)でも優れた帯電防止効果がある導電素材といわれるもので、電子伝導またはコロナ放電により除電する方法です。ナイロンあるいはポリエステルのなかに導電性に優れた物質(カーボンブラック)を配置したものです。低湿度で着用する特殊作業服(静電気による発火を防止する)や、カーペット(ノブに触ったときのショックを防止する)、さらにほこりを極端にきらう半導体製造やバイオ関連のクリーンル−ムで着用する防塵服に使われます。

繊維の燃焼性
繊維の燃焼性は4つに区分されます。不燃性…燃焼しない:炭素繊維、ガラス繊維、難燃性…炎に触れている間は燃えるが、炎を遠ざけると消える:アラミド繊維、モダアクリル(アクリル系)、可燃性…容易に燃えるが、炎の広がりは比較的緩やかである:ポリエステル、ナイロン、ビニロン、羊毛、絹、易燃性…容易に燃え、速やかに燃え広がる:綿、麻、レーヨン、キュプラ、アセテート、アクリル。
不燃性や難燃性のものは特殊な繊維で、多くの繊維は可燃性か易燃性です。同じ繊維でも使い方で燃え方が異なり、カーテンのように垂直の状態で使うものは燃え易くなります。

防炎素材
難燃レベルの素材のこと。広く使われている可燃性か易燃性の繊維を改質(難燃剤を合成繊維の製造段階で練り込むか後加工で付与)し、難燃レベルにします。消防法では、高層建築物、地下街、劇場、旅館、病院、学校などでは防炎製品を用いることを義務付けています。認定基準に合格した製品には日本防炎協会の「防炎ラベル」が貼付されます。車両や地下街で使うものに対しては、防炎性はもちろん燃焼ガスも問題になります。

<より快適で健康な衣生活を目指して>          
人体生理の基礎研究と先端技術が結びついて、誰もが気楽に快適で健康な衣生活がもっと楽しめるようになるでしょう。消費者も科学の目を持って商品を賢く選びましょう。

→もくじに戻る

 

Copyright (C) 2009Research Association of Kigokochi Science. All Rights Reserved.